正解:イ
1. 問題のポイント
本問は、**民法における契約不適合責任(旧来の瑕疵担保責任に相当)**についての理解を問うものです。
契約不適合責任とは、売買契約や請負契約において、納品物が契約内容に適合しない場合に売主(または請負人)が負う責任 のことを指します。
本問では、A社(発注者)がB社(受注者)にソフトウェア開発を委託し、納品物が契約に適合していない状況において、A社がどのような権利を持つかを考えます。
民法(第562条~第564条)では、契約不適合があった場合、買主(A社)は以下の権利を持つ とされています。
履行の追完請求(修補、代替物の引渡し、不足分の引渡し)
代金減額請求
損害賠償請求
契約の解除(ただし、軽微な不適合では不可)
本問では、これらの権利がどのように適用されるかを確認します。
2. 各選択肢の検討
ア:「A社が、その方法を指定した上で目的物の修補、代替物又は不足分の引渡しの請求を行った場合、B社は、A社が指定した方法に必ず従う必要がある。」 → ❌ 誤り
契約不適合責任における履行の追完(修補・代替・不足分引渡し)については、A社が請求する権利を持つが、B社はその方法を選択することができる。
民法562条では、「買主(A社)は追完請求できるが、売主(B社)はその方法を選択できる」とされている。
したがって、「A社の指定した方法に必ず従う必要がある」という部分が誤り。
イ:「A社には、契約不適合の程度に応じた目的物の修補、代替物又は不足分の引渡し、損害賠償、契約の解除、及び履行の追完請求を行ったが履行の追完がなされない場合における代金の減額を求める権利がある。」 → ✅ 正しい
契約不適合が発生した場合、A社には次のような請求権がある(民法562条~564条)。
履行の追完請求(修補・代替・不足分の引渡し)
損害賠償請求
契約の解除(ただし、軽微な場合は不可)
代金減額請求(履行の追完がなされない場合)
よって、この選択肢の記述は正しい。
ウ:「A社は、目的物の修補、代替物又は不足分の引渡しの請求を行う場合、成果物の引渡しから1年以内に請求をしなければならない。」 → ❌ 誤り
契約不適合責任の請求権は、原則として「契約不適合を知った時から1年以内」に行使する必要がある(民法566条)。
しかし、記述では「成果物の引渡しから1年以内」となっているため、起算点が誤っている。
実際には、A社が契約不適合の事実を認識した時点から1年以内 であれば請求可能である。
エ:「契約不適合責任は、無過失責任に該当するので、B社の帰責事由の有無にかかわらず、A社には損害賠償請求が認められる。」 → ❌ 誤り
契約不適合責任による損害賠償請求は、売主(B社)の帰責事由が必要 である(民法415条)。
無過失責任(=過失の有無に関わらず責任を負う)とは異なり、B社に過失がなければ損害賠償責任は発生しない。
よって、この選択肢は誤り。
3. まとめ
本問は、民法の契約不適合責任における発注者(A社)の権利 についての理解を問う問題でした。
履行の追完(修補・代替・不足分の引渡し)を請求できるが、方法はB社が選択できる(ア:❌誤り)。
A社には、履行の追完請求・損害賠償請求・契約解除・代金減額請求の権利がある(イ:✅正しい)。
請求権の期限は「契約不適合を知った時から1年以内」(ウ:❌誤り)。
損害賠償請求は、B社の帰責事由(過失など)が必要(エ:❌誤り)。
したがって、正解は「イ」。